異分野meetup week2020 研究者コミュニティサロン「アーティストが北大で働くということについて」を開催しました(12/3)
2020年11月30日~12月4日に開催されていた超異分野meetup week 2020企画の一部として、12月3日(木)研究者コミュニケーションサロン“アーティストが北大で働くということについて”というタイトルで北海道大学高等教育推進機CoSTEP特任助教 朴炫貞(パクヒョンジョン)先生(韓国出身、造形博士)と北海道大学人材育成本部ダイバーシティ研究環境推進室 学術研究員 藤井(日本・静岡出身、理工学修士)がおしゃべりする様子をお届けしました。
この企画は、同日開催のKnit a Network! ロールモデル座談会とセット企画でした。
Knit a Network! ロールモデル座談会の記事はこちら
朴先生は、韓国出身のアーティストであり“造形”で博士号を取得されました。
北海道大学では、アートを通した科学技術コミュニケーションを実践・研究しています。
現在開催中の展示:そりにひかれてsori2020.com
ロールモデル座談会では、韓国ご出身の朴先生が日本に来て学び働いているいきさつを中心にお話しましたが、研究者コミュニケーションサロンでは朴先生がどのようなことを考えて作品というアウトプットをしているか、作品を創る上で、今いる北海道大学は朴先生にとってどのような環境なのかということを二人でおしゃべりしました。
この続きは下記「レポート」をご覧ください。
レポート
研究者コミュニケーションサロン“アーティストが北大で働くということについて”は、Knit a Network! ロールモデル座談会から引き続き、北海道大学札幌研究林の温室(アノオンシツ)からお届けしました。
温室は、JR北海道の線路脇に拡がる札幌研究林の中に、1973年に建てられました。
温室のガラスをフィルターにして、これから夕方へ向かう太陽の光とまろやかになった電車の走る音が聞こえる空間です。
――実際に作品を創ることを学ぶ学部がない北海道大学で、造形で博士号を取得されたアーティスト、朴先生はどんなお仕事をされているのでしょうか。
仕事を話す上でこれをみんなと共有したくて(平面にボールが当たる動画を共有しながら)! 北大でアートや実践をするってことは、北大の中に“アート”というボールを投げていることになるのかな。ボールを投げた先は波打ったり、吸収されたり、撥ねられたりすること、なにが揺らぎを起こすことはできるのかな、と。反応がないこともあるかもしれないけれど、ボールを投げた事実は残ると思う。自分の活動はこういう風に考えています。
作品はというと、写真を大切にしていてカメラを通して自分が当たり前だと思っている日常を当たり前じゃなく見ることが主な手法で、例えば、窓のサッシを24時間撮影し続けた作品。24時間撮影を続けるといろんな表情を見せる、そうすると風景に見えたものを作品にしたり(実際作品は一見、窓のサッシには見えない)。あとは言葉を題材にしたもの。ことばとものを組み合わせて、ふと立ち止まるような作品を創ったりしています。
自分が作るだけでなく誰かの“つくる”機会もつくっていて、お題(単語)を出して、お題にそった写真やイメージを参加者が撮影してくるようなワークショップを開催しました。例えば、“さんかく”というお題を出すと、撮影者それぞれの“さんかく”が集まってくるんです。言葉を用いて映像の枠を超えるようなものもやっている。他の人が創る場を創ること。この3つを軸に活動しています。
揺らぎの人=間の人でありたいと考えている。
間に、立って問いかける。間で、問いかけることもできる、間を、問いかけることもできると考えていて、実写と想像・イメージの間の表現 韓国語と日本語の間の表現、私(ワークショップの主催者)と他者(ワークショップの参加者)の間の表現、とか。
北大でやっている仕事では、科学とアートの間も大きなテーマです。
――北海道大学 科学技術コミュニケーター養成講座での具体的な活動というと・・・?
アーティストが来札した時に北海道大学の研究者とコラボレーションしたり、クリエイターを北海道大学に招いて、クリエイターの視点から北海道大学の研究を見て表現していただいたり、学生が表現をする機会を創ったりしています。また、科学をわかりやすく伝えるだけでなく、科学を知るってどういうこと?ということを考えるインスタレーションとして“単位”をテーマにした展示も開催しました。
今年は、“アノオンシツ”というプロジェクトでこの温室を拠点にバイオアートを軸にした体験を提供することで北海道大学の人、空間、知識をつなげてボールを投げたいって考えてます。
――作品を拝見していると、多様な視点を取り入れた作品のようにも思えるのですが、朴先生が多様な視点に気が付いてそれを表現したいと思えたのはなぜでしょうか。
自分が知りたいから・・・?わざわざ造形(の学問)がない北大で活動しているのは、私が聞きたいから、知りたいから。
今年(2020年)の1月、天塩研究林に行って感動した。寒くて耐えられないけど目の前に広がった雪の風景に美しくて感動したのだけど、この感動を私以外の人たちはどう表現するのか、見ているのか知りたい。これが根底にあります。
そして、自分が知りたいという自己満足だけで終わらせるのではなく、この好奇心から、次のボールにつながるように作ることが、(朴先生の)実践研究につながっています。
――朴先生は、異なる領域を専門とする研究者と話す時に気を付けることはありますか?
研究者に話を伺うときは、研究分野への興味から行くようにしています。その研究を自分がどういう視点で聞きたいのか明確にするようにしたり、研究内容を理解しようとする姿勢も大切にしています。いろいろな視点が大切なので、自分はこう見ている解釈している、を共有するようにして、一緒に活動している相手にとって新しい体験ができるようにすることを大事にしています。
私がつくろうとしている作品は、正解を出すのではなく、正解がない中で私の答えをお話できるようにして、この体験からアーティストも研究者も新しい発見があって、アーティストの視点や研究者の視点が勉強になるよう気をつけています。研究者が自分の専門を他者へ伝えたとき、相手はどのように解釈、考えているかコミュニケーションする機会もあるから。
――朴先生、自分は究極のマイノリティって自分のことを表現することありますよね。
そう、外国人、アート専門、女性、比較的若手研究者である、パートナーや子どもがいないっていう。女性研究者の課題として子育てとの両立が多く取り上げられるけど、子どもがいない女性研究者も大変だよー!って(笑)メジャーじゃないことは意識している。でもメジャーじゃないから間の問いかけが見えやすいかもしれないです。
――日本に来て、制度面などでどうしようもない事にぶつかったことはありますか?
帰国しなきゃってことはないけど、ビザの更新で、“あ、外国人だった”って感じます。
滞在期間で例えば、3年ビザで今2年目だとして残り1.5年だと、携帯や賃貸の家の2年契約ができない。ある意味未来の見通しを設計しづらい。
それと、日本の政治への選挙権がないこと。韓国の投票はしていて、日本から見る韓国の政治を見れることはよい視点だと思う。
あとは、日本の歴史の話されてもわからない(笑)
――ジェネレーションギャップでわからない日本の歴史は日本生まれの私もあります(笑)
でも、(生きる場所は)自分が選んでるので。生まれた場所や親は自分で決められないのが大多数だと思うけど、自分の居場所をなんらかの理由で自分で選んで決めて、その場所を広げていくことは、自分で責任をもたないとなぁって。
北大の最強のマイノリティとしてできることがあるのかなって。例えば髪を染めてみた、とか。体験?(笑)それに触れた人がなるほどねってなるような、こういう研究者もいる。髪の色の多様性も含めてボールを投げつづけることはあります。
――私はツーブロックの髪型をしている時、公の場面ではそうとわからないようにヘアスタイルを変えてました。TPOは大切だけどその中で画一的になってしまっているように感じていて、それはさみしいなぁって思います。
(就職活動の時など)自分が進んでスーツを着るのはいいけど、スーツ着なきゃいけないってプレッシャーは嫌でした。(髪を染めていることも)目立ちたいから髪を染めているわけでない、という(なぜ染めているか)文脈が共有されることがダイバーシティの始まりなのかな。
――画一的な装いをすることで内面は引き立つ面もある。決められたドレスコードの中で自分を表現できるようになったらいいのになって思う。例えば黒のスーツでも、漆黒の黒だったり、少し織りが入ったり。
コロナで遠隔会議が普及して効率良くなっていくように、見た目や見せ方についても、それいらないからこれ見せようか!とかね、私はこれがいいからこれ着る、このスタイル守るという選択はその人、自分の人生なので。
――自分の人生の操縦桿は自分が握るって意識は持ってる。これ朴先生と私が共感しているところですよね(笑)
そうそう、こういう話延々とできるよね、この間もずーっと2時間くらいこの話したし(笑)
発言しないとわからないところもあると思う。
――そうそう!表現してみないとわからないこともあって。ただ、表現するとき相手に受け入れてもらえるように表現するように、気をつけなきゃなって思う。
そうですよね、多様性の基本は尊重。自分を尊重してほしかったら相手も尊重しなきゃならない。
変化や揺らぎが不愉快な人や、向いてない、慣れてないひともいる。そういう人たちに強要するのは違うと思っている。それも、自分で判断できるようになるような・・・
言うのは簡単なんですけどね(笑)。
――自分が注意深く相手をよく見て感じて考えなきゃいけないし、自分もそこにいたりフェードアウトする勇気も必要だし。
そう、勇気!
ぼーっとせず考え続ける。たまに休憩してもいいけど。
――最近ホットな話題ありました?
最近、作品!展示、作品!って感じで楽しくてつらいシーズン(笑)
“そりにひかれて”という企画の展示を制作していますが、長年撮ってきた木が倒れる映像で作品を創りながら“木が倒れる”ってどういうことだろうって考えたり。
札幌を舞台に開催される芸術の祭典「札幌国際芸術祭(SIAF)」は開催中止になったけど、ドキュメンタリーショーとして共有するために、風がテーマの作品を制作したり。自然を見て表現することがホットな話題です。
――“そりにひかれて”は12/19~1/24の期間、北海道大学総合博物館で展示するんですよね。
北海道大学総合博物館と、アノオンシツ(配信場所)でもインスタレーション(展示)します。寒いときの音を展示しようと。温室の新しい使い方を見せれるかな。WEBで音を使ったオーディオコンテンツも企画しています。
ーーでは道外の方も遠隔で楽しめるんですか?
そう!sori2020.comで!
“そり”は、韓国語で“おと”という意味で、氷の上を滑る、ちょっと寒そうな、“おと”としては“ががががが”みたいな“おと”を想像するような“そり”は、隣の国や違う文化では、 “おと”として使っているってことを含めて、研究者やアーティストが環境に対してどういうふうに耳を傾けているのかということを、現代アートの作家さんと、北海道大学や北海道の研究者、科学者の視点で一緒に展示することを目指して進めています。(本サロンは、“そりにひかれて”展示開始前の12月3日に開催されました)
――このプロジェクトは2020年KNIT共同研究助成のプロジェクトの成果なんですよね。
(この研究助成は)いろんな人たちが自由に研究できるのがいい!
異分野meetup week 2020のポスターセッションに出展している報告ポスターには、実践研究ってどうやっているのか、アートの実践研究ってどういう風に進んでいるのか、ということも見れると思う。(※ポスターセッションの閲覧は2020年12月4日をもって終了しました)
――視聴者の方からご質問いただきました。「アーティストと研究者の切り替えはしていますか?」
切り替えは、したいけど、研究者!アーティスト!!ってオンオフが一瞬でできればいいけど、できない人間だということがわかりました!作品を作れてない時、作っている時も、作家としての自分と研究者、二つレイヤーを同時並行しながら進めてるイメージ。ここからアーティスト、ここから研究者、って言えないような活動をしているとも言える。
CoSTEPに来たばかりのときはそれができない自分に苦しんでたけど、それならば作家であり研究者というアイデンティティをもって、研究したり作品作ればいいじゃん!と自分に言い聞かせている。
教育する時は、このアイデンティティが活きてくるような気がする。
学生が質問しにくるときは、研究者の視点から言った方がいい、アーティストの視点から言った方がいい、と使い分けができる。
――この質問に関連して研究者ってなんだろうって考えたんですけど、(研究のイメージって)論文かいたり質的量的になにか分析したりっていうことはあるけど、自分の表現を探求してアウトプットするということではアーティストと研究者は同義だなって思うんです。ツールが違うだけで。
そうですね、これからもアーティストであり研究者として、自信をもって活動できていったらいいなって思います。
ロールモデル座談会からスタートして、“アノオンシツ”に差し込む日差しはだいぶ西に傾き始めていました。
北海道で出会った韓国出身の朴先生(造形博士)と、日本(静岡)出身の藤井(理工学修士)によるおしゃべりにお付き合いいただき誠にありがとうございました。専門としている学問は異なる二人ではありますが、日々の生活で感じることや考えることに共通点があり、CoSTEPでの先生と生徒の関係(藤井が生徒)から今に至るまでおしゃべり友達です。
異分野meetup week がこのような出会いを増やすような機会となっていくことを目指しています。
朴先生と研究者、そしてCoSTEP受講生による現在開催中の展示:そりにひかれてsori2020.com