KNIT a Network! 研究者座談会「意外とやってる!?男性の家事、育児」開催報告
「KNIT a Network!ロールモデル紹介番組」は、研究に携わるいろいろな人の生活、いろいろな人の人生から、キャリアや暮らしの参考になるTIPSを提案するオンライン配信企画です。2021年度のテーマは“MY LIFE”。
生涯の中で、働く場所や環境、暮らす場所や環境は一つとは限りません。選択は人それぞれ。
毎月、ゲストのこれまでの経験や選択についてお話を伺っていきます。
今回のロールモデル紹介番組は、オンライン研究交流イベント「異分野meetup2021」(9/13~10/3)内のスペシャル企画としてお送りしました。
テーマは、「意外とやってる!?男性の家事、育児」。2021年6月、育児・介護休業法の改正が成立しました。この改正は、出産する女性のパートナー(男性)が育児休業をより取得しやすくなるよう考えられており、2022年4月1日より段階的に施行が進みます。これに先駆けて、男性研究者の家事・育児・仕事の日常とこれまでの人生についてお話を伺うロールモデル座談会を企画し、室蘭工業大学 ひと文化系領域 三村 竜之 先生、北海道大学 大学院先端生命科学研究院 塚本 卓 先生のお二人にご登場いただきました。
レポート
お二人の日常やこれまでの人生についてお話を伺う前に、どのような研究に従事されている研究者かお話いただきました。
塚本先生のご専門は、生物物理学。物理的な考え方や方法を使って、生命の本質とは何か?を理解しようとする研究分野です。タンパク質が「働くしくみ」を研究して、生命の本質を理解しようとしています。タンパク質は、私たちヒトをはじめとするすべての生物の活動や機能に欠かせない物質であり、様々なアミノ酸が多数連なって立体構造を形成している高分子ですが、構成しているアミノ酸の種類やそれによってできる立体構造によっても多くの種類のタンパク質があります。塚本先生は、その中でも光受容体タンパク質のロドプシンに注目して研究を進めています。研究以外でも、大学の授業や学生の研究指導も行っています。
三村先生のご専門は、言語学。言語現象の中に見られる言葉のしくみや原理を捉える学問です。その中でも発音のしくみ(音声学や音韻論という研究領域に入るそう)に注目し、北欧の諸言語のうち特にデンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語を対象に、フィールドワークでネイティブの方の発音をレコーディングした音声資料を解析したり、過去の文献資料から古い時代のアクセントを明らかにする研究を進めています。研究以外では、教養科目である英語の授業を担当しており、大学院の授業で異文化理論特論を開講することもあるそうです。
このような研究をしている塚本先生、三村先生ですが、どのような経緯を経て現在の研究とライフスタイルへと繋がっているのか、今回も人生のターニングポイントと共にお話いただきました。
<塚本先生のターニングポイント>
・博士ってかっこいいからなりたかった!という夢を叶えた塚本先生は博士課程に進学して研究を続ける中で研究テーマの面白みを初めて感じ、大学で研究を続けることを選択して現在もこのテーマを継続・発展中。
・岡山大学勤務時に同じ大学に勤めていたパートナーと結婚、第1子誕生。家族との時間を確保するために仕事の進め方を工夫するようになる。
・家族と一緒に札幌へ。パートナーにとっては初めて住む町なので慣れるまでは家族のサポートに軸足を置く生活に。任期付きポジションなので時間のやりくりは研究へのプレッシャーもあったそう。
・第2子誕生。出産後、3カ月弱の育児休業を取得。来春まで札幌―岡山で別居生活の予定。(塚本先生は札幌で一人暮らし)。
<三村先生のターニングポイント>
・英語を使った仕事をしたくて外国語大学へ入学。
・自分が学びたい領域を求め、言語学を勉強し直すために東京の大学へ学士編入学。勉学を修めた後、企業への就職という選択肢はあまり考えられなかった三村先生は、外務省奨学金でデンマークに短期留学(外国語研修)。博士課程進学の半年後、外務省奨学金を得て約2年間デンマークに留学。
・文学博士の学位取得。東京都内の大学にて常勤職を得る。学生時代の友人を介して現在のパートナーと出会う。
・今後のキャリアや生活を考えながら就職活動していたところ、室蘭工業大学に採用され、これをきっかけに道民になる。
・北海道へ来てから、夫婦で子供を授かりたいという希望を持つようになり第一子誕生。その後の家事・育児は想像以上に大変だった。
・コロナ禍で家庭での過ごし方、仕事・研究への向かい方が変わる。
2者2様のこれまでの人生ですが、お二人ともご結婚されたあと生活拠点を変えています。このことについて、拠点変更に際してパートナーとどのように話し合ったのか質問しました。パートナーの仕事やライフプランにも影響すること、司会のDJ藤井も興味津々で聞きました。
塚本先生の場合は、パートナーにとっては住み慣れた街からの引っ越しであることが大きな課題であり、「話し合いは時間がかかった」とのこと。納得はしてくれたが、その代わり家は岡山に建ててと言われたそうです。
三村先生は、当時東京での仕事が、片道2時間位かけて通勤したり、複数の仕事場を掛け持ちしていた事もあり、生活スタイルを見直したい気持ちがあったとのこと。大きな街が好きなパートナーだが、パートナーも新しい場所を二人で見つけたかったんだと思う、と振り返ってお話ししていました。話し合いはしたが、北海道に来て現在のポジションを得ることで収入も生活も安定するので、反対はされなかったようです。
DJ藤井も実はパートナーと他拠点別居生活中。北海道には一緒に引っ越してきたものの、パートナーの希望と今の自分の希望を話し合って、現在の選択をしました。
拠点を移してから、互いの助け合い大事なのではというお話も挙りました。
さて、上記の経緯で北海道で暮らしているお二人ですが、次は大学研究者の1日のスケジュールをそれぞれ伺いました。
<三村先生の1日>
仕事の日:5時頃起床、朝食・昼食の準備、家族を起こす。7時半頃出勤。8時頃到着。メールと北欧のニュースをチェック。9時半頃始業。授業の準備、大学業務(会議など)、研究(勉強・読書・資料整理、原稿執筆など)。17~18時ごろ終業。18時頃帰宅。家族との時間や自分のお楽しみタイム(晩酌)を過ごし、21時頃就寝。
お休みの日: 6時頃起床後、朝食・片付け。8時半頃から10時半頃サイクリング。買い物・お出かけ・掃除など。昼食(週によって担当が違う)。家族と遊んだり、それぞれ個人で楽しむ自由時間。18時半頃夕食。21時就寝。
三村先生は主に食事の支度を担当しており、洗濯大好きなパートナーであるためここはお任せして分担しているそうです。
<塚本先生の1日>
(現在:塚本先生北海道で単身生活中)
仕事:5時頃起床。7時頃出勤。自分のための時間;実験・デスクワークなど(文献調査・作戦立てる、授業の準備、論文・申請書を書く、その他事務仕事)。10時~16時の間は学生との時間;実験・作戦会議、世間話など。16時~19時頃まで夕方の自分のための時間として仕事をしてから帰宅。22時頃就寝。
お休み:6時頃起床。洗濯・掃除。買い出しなど。1日に2回くらい家族に電話する。
(家族と同居している時)
仕事:5時頃起床。洗濯・掃除・朝食準備、幼稚園への送迎をしてなど。9時頃出勤。30分ほど自分のための時間;実験・デスクワークなど(文献調査・作戦立てる、授業の準備、論文・申請書を書く、その他事務仕事)。9時半ごろ~16時まで学生との時間;実験。作戦会議、世間話など。16時から18時半頃まで自分のための時間として仕事をして帰宅。夕食・入浴・寝かしつけ。23時ごろ就寝。
お休み:6時頃起床。洗濯・掃除。買い出しを兼ねてお出かけ。たっぷり子供と遊ぶ。18時半ごろ夕食。入浴・寝かしつけ。23時頃就寝。
お2人とも家族のスケジュールによって過ごし方が変わるという事でしたが、仕事と家族の予定を組む中での、親族のサポートや保育所の一時保育の活用について質問しました。
塚本先生も、三村先生も生活拠点の近くに頼れる親族の方などは暮らしていないことから、保育所の一時保育は活用したそうです。一時保育は枠が限られているため利用予約のスケジュールは気を付けなければならないことをお話されていました。どうしても仕事の予定を変更できず、保育所も利用できなかった時、三村先生はお子様を教室に同席して授業をしたこともあったそう。受講生の多くが社会人であったこともあり、温かく迎えてくれたエピソードもお話いただきました。
最後に、事前にいただいていた質問、「仕事・研究が忙しく十分に子育てをする自信がないため,子供を産みたいとは思わないという研究者も少なくはないと思います(特にポスドクと子育ての時期が重なってしまうため)。子供を授かって良かったと思うことを教えてください。」に答えていただきました。
<塚本先生>:心が豊かになる。仕事をする上で、パワーが出る。学生を指導する時にも親の目線が入ってくるなど、良い事があると思う。大変な事ももちろんありますが、人生楽しいです。
<三村先生>:妻と2人でも楽しかったがそこに1人増えて、家族のために仕事をすると思えばがんばれる。言葉の研究をしているうえでも、息子を見ていて楽しかった。観察して楽しかった。勉強になるし、人間的にも成長できる。ただ、研究と並行して結婚・子育てに踏み切るのはなかなか大変だと思う。東京にいたら子供を持ちたいと思わなかったかも。室蘭に来て、落ち着いた環境だからこそ踏み切れたかもしれない。それぞれの方の置かれた環境によって違うと思います。
塚本先生、三村先生それぞれの、自分やパートナーの仕事やこれからの希望、日々の暮らしについて、たくさんのご経験とお考えを共有いただきました。
ゲストにお越しいただき誠にありがとうございました。
最後ではございますが、ご視聴いただいたみなさま、誠にありがとうございました。